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彼女の結婚式

 Story

 
こんなに素敵なホテルで裕也と二人きりなんて夢みたい。
そうだ、サービスのシャンパンがあったから準備しておこうかしら。
裕也がお風呂から上がったら二人きりで乾杯して……いっぱいおしゃべりして……。
それよりも、お昼なんだし天気もいいし、お外でお買い物がいいかな~。
記念にお揃いのペンダントとかブレスレットとか買って~。
でも、結婚指輪があるのにペンダントとかブレスレットまでお揃いってイタイ子だと思われるかな……。
……そうだよね、結婚指輪があるもんね。
うふふ~、絶対になくさないようにする!
裕也とお揃いの結婚指輪……私、裕也と結婚したんだね。
おめでとう、私!
これからは『上村 舞』になるんだね。
裕也の事、何て呼べばいいのかな。
『ア・ナ・タ』って呼んでみようかな。
んぅ~、恥ずかしいよぉ。
裕也には『舞ちゃん』じゃなくて『舞』って呼んでもらおうかな。
『舞』『ア・ナ・タ』うん、良いと思う。
今日は勇気を出して、甘えちゃおうかな。
裕也ったら恥ずかしがって手を繋ぐのも嫌がるんだもん。
腕とか組んでみたいな……。
お外でキスとか……やっぱり無理かな……。
でもでも……その……今日はお泊りだから……ひょっとしたら……。
も、もしも……裕也がお風呂から上がって……私にお風呂を勧めてきたら……。
その時は……そういう事だよね……。
うん、裕也がお風呂を勧めてきたら……その時は頑張る!
お風呂を勧めてこなかったら、諦めてお散歩かな……。
諦めてって……それじゃまるで私が裕也とエッチな事がしたいみたいじゃない!
全くない訳じゃないけど……ちょっと、興味はあるってうか……。
裕也は興味ないのかな……。


……

二人きりとはいえ結婚式だもんな、そりゃ緊張もするよ。
舞ちゃんもガチガチに緊張してたな。
指輪交換の時、お互いの指がプルプル震えちゃって上手く入らなかったな。
あれは恥ずかしかった、二人きりの結婚式で本当によかった。
あんな姿をビデオに撮られたら末代までの恥だ。
何はともあれ、無事済んでよかった。

これからどうするんだろう。
風呂から出たら、やっぱりエッチな事とか……。
でも昼間からそんな……恥ずかしいし……。
それに、そんな事考えてるのは俺だけかも。
舞ちゃんはどう思ってるんだろう。
多少は意識してるのかな……エッチな事とか……。
皆、どうやって切り出すんだろう。
エッチしようってストレートに言うのかな。
言えねぇよ、恥ずかしくて言えねぇよ。


……

上村 裕也「ただいま、いい湯だった。」

上村 舞「おかえりなさい……ア、ア、ア・ナ……」

上村 舞(アナタって呼べなかった……
しかも、緊張で変な感じになっちゃったよぉ~。
もう一回やり直したいよぉ~。)

上村 裕也「舞ちゃん、お風呂が凄く広かったよ。」

上村 舞「……う、うん。これからは舞ちゃ……」

上村 裕也「あれ? 何でドレス着てるの?」

上村 舞(舞って呼んで欲しいのに言うタイミング逃した……
あぁぁぁぁぁんっ! 上手くいかないよぉ~。
もっとラブラブしたいのに、これじゃいつも通りだよぉ~。)

上村 舞「折角だから……着たいな~って……」

上村 裕也「似合ってるよ。」

上村 舞「あ、ありがとう。」




上村 裕也「今日は緊張したね~。」

上村 舞「わ、あ、た……わ、私もお風呂に……入った方がいいかな……」

上村 裕也「舞ちゃんのドレス姿、もう少し見せてよ。」

上村 舞「う、うん……いいよ。」

上村 舞(うぅ~、何で私ったらドレス着ちゃったんだろう。
ドレスを着ていなければ、私がお風呂に入って……って事になったかもしれないのに……
初めてのお泊りなのに……うぅ~、私のせいだ……今日は諦めよう……。)

上村 裕也「……綺麗だね。」

上村 舞「ありがとう、嬉しい。」

上村 裕也「舞ちゃん、さ、さ、さ、触ってもいい?」

上村 舞「うん、乱暴に触ったらレースが破けちゃうから気をつけてね。」

上村 裕也(触るってドレスの事じゃないんだけどな……
こんな状態じゃ身体なんて触れないよな……
やっぱり警戒してるのかな……
差し障りのない話題で打ち解けないと……。)

上村 裕也「舞ちゃんは、子供の頃ウェディングドレスに憧れてたの?」

上村 舞「うんっ! 憧れてたよ~。」

上村 舞「ウェディングドレスっていうよりも、お姫様に憧れてたな~。」

上村 舞「白雪姫みたいに最後には王子様が……」

上村 裕也「へぇ、そうなんだ~。」

上村 裕也(凄い食いつき……
身体に触るとか、もうそういう雰囲気ではないよね……
こんな話題振るんじゃなかった……
それにしても、舞ちゃん……余程憧れてたんだね。)

上村 舞「……シンデレラみたいになりたいなぁ~って。」

上村 裕也「そうか、シンデレラか……」

舞ちゃんを見てシンデレラみたいだなと思ったことがある。
お姫様のようだとか、そんな美談ではない。
当時の俺達は遠距離恋愛中だった。
彼女が海外から帰郷するのは年に数回だけ、その数回の中の更に僅かな時間だけが、お互いの時間を恋人として共有する事が出来た。
舞踏会にしてはあまりにも短く、いっそ踊らない方が幸せなのかもしれないと何度も思った。
時計の針が約束の時刻を指し示すと、彼女はきまって泣きだす。
彼女は泣き顔を隠すように俯き、未練を断ち切るように小走りで帰る。
彼女の後姿を見ながら、シンデレラも魔法が解けた時はこんな気持ちだったのだろうと……。


上村 舞「……裕也、考え事?」

上村 裕也「ん、ん~。何でもないよ。」

上村 舞「……寂しいな。」

上村 裕也「?」

上村 舞「一緒にいるのに……上の空なんだもん。」

上村 裕也「ん~、ドレスが綺麗だな~ってね。」

上村 舞「本当に?」

上村 裕也「本当だよ。」

上村 舞「ドレスだけ?」

上村 裕也「……あぁ~、舞ちゃんも綺麗だよ。」

上村 舞「……ついでみたいに言われた。」

上村 裕也「ハハハッ、本当に綺麗だよ。」

上村 舞「ありがとう。」

上村 裕也(舞ちゃん、綺麗になったな。
普段の可愛い姿も好きだけど、大人っぽい姿もいいね。
化粧と服装でこんなにもイメージが変わるなんて……女の人って凄い。)

上村 裕也「これからどうする?」

上村 舞「う、う、うん。」

上村 舞(これからどうするなんて……きっとアレだよね。
私の口から、そんな事言えないよぉ~。
どうか裕也がリードしてくれますように……。)

上村 裕也「どうしたの? 何か変だよ?」

上村 舞「う……い、いつも通りだよ。」

上村 裕也「そっか、そうだね。」

上村 舞「……」

上村 裕也「……」

上村 舞「……」

上村 裕也「……」